敷地は名古屋市郊外、わずかに雑木林を残す小高い風致地区の中に位置しています。
土地は南北に細長く、建物は隣地境界から1.5Mの後退が義務づけられています。
高耐久、高断熱そしてローコスト、これらのクライアントの要求を満たすため、建物は単純な長方形の平面にシンプルな片流れ屋根をのせる形となりました。
少ない床面積の中に広々としたゆとりのある空間を作り出すために、動線専用となる空間をなくし、各スペースを連続させ、建物のほぼ全体が一つの大きな空間となるように構成されています。また、アプローチ~裏庭、玄関~ホール~坪庭、ホール~居間~ベランダ~前庭等々、人々が移動していくのに伴い、最大のパースペクティブ(ビスタ)が得られる様に考えられています。
外壁には通気層を確保し、屋根と同様に耐久性の強いガルバリウム鋼板を使用しました。また、外壁・屋根・床下には調湿性・断熱性に優れ、しかも環境にやさしい古紙利用のセルロースファイバーが吹き込まれています。全室に使われている断熱サッシとともに、高い断熱性を内部空間にもたらせています。内部の天井面・壁面には、漆喰が塗り込まれ、床のムク板とそれに塗られた植物性の塗料とともに、体と心にやさしい環境を作り出しています。
各室が引き戸を境に連続する構成は、間取りやデザインこそ違え、昔の民家を思いだされるかも知れません。決して広い住宅ではありません。遊びのスペースに富んだ複雑な間取りでもありません。ムクの木材と漆喰だけで被われた単調だがおおらかな空間を、ただ光と風が通り過ぎていく。バーチャルな世界に疲れた現代人には、こんな空間が「ゆとりとやすらぎ」を与えてくれるのではないでしょうか。