以前コラムで「縁側」について書いたことがありますが、この「縁側」が外部的内部空間とすれば「中庭」は内部的外部空間と言えるかもしれません。
内部空間から縁側やデッキへ、そして中庭へと少しづつ外部空間へ開かれていく、そんな建築をいくつも作ってきました。日本語的英語では「コートハウス」と呼ばれるこのような建築は「MY邸」の文章の中でも触れましたが、プライバシーを確保したいというクライアントの要望に応えたものでした。外部からの喧騒や視線を遮りつつ外部の陽光や風を採り込む、そんな中庭を持つ建築は市街地等の建物が立て込んだ場所で昔から大変重宝されてきました。そのためヨーロッパの都市部はもちろんの事、日本の古い街並みの中にも多く見ることができます。そして、ヨーロッパの修道院においては己を見つめ直す(神と向き合う)静謐な空間ともなっています。「ル・トロネ修道院」や「ラ・トウーレット修道院」の中庭は大変魅力的で、いまだに忘れることができません。
中庭は英語で「Courtyard」もしくは「Court」と言いますが、イタリア語ではたぶん「La Corte」になります。事務所独立前、今はなき「環境計画」という設計事務所に勤めていた折、柳ケ瀬に「ラ・コルテ イタリアーナ」というテナントビルを設計しました。名前も僕が考えたのですが、路地と中庭を持つこの建築の特徴を表すためにこの言葉を選んだのです。それは当時僕が大好きだったイタリアの建築家アルドロッシが福岡で「イル・パラッツヲ」というホテルを建てたのですが、僭越ながらそれへのオマージュでもありました。辞書で色々調べ「パラッツオ」は男性名詞、「コルテ」は女性名詞なので頭に「イル」ではなく「ラ」を付けました。ただ正しい表記かどうかは未だに確認していませんが...
「ラ・コルテだけでは普通の人には意味がまったく通じない。後ろにイタリアーナを付けろ」英語とスペイン語が堪能だった設計事務所の所長だった長田さんのそんな一言でビルの名前は「ラ・コルテ イタリアーナ」に決定しました。そんな長田さんも、色々とお付き合いいただいたビルのオーナーの原田さんも今は居ません...遠い昔の懐かしい思い出です。
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