素朴なコンクリート (4)

鉄筋コンクリート構造はその施工方法においても素朴な構造と言えます。

この構造はコンクリートを型枠と呼ばれる鋳型に流し込んで形作られますが、その鋳型は一つ一つの現場で型枠大工さんという職人さんによって、手作業で作られているのです。もちろん、それを補強する鉄筋も手作業によって組まれています。多くの産業が工場での大量生産という近代化が行われる中、この構造だけは未だに手工業なのです。

建造物はその土地、土地に固定された巨大な構築物です。そのため、全ての工程を工場での大量生産のように近代化する事は当然困難です。ただ、鉄骨やプレファブは構造部材そのものは工場で加工され、現場で組み立てられます。在来工法の木造でさへ、構造部材のほとんどがプレカットと呼ばれる工場での先行加工によって作られています。ただ、鉄筋コンクリート構造だけはその構造の特性のため、生産工程の重要な部分のほとんどが現場で行われているのです。昔より進歩したのは、コンクリートを現場で捏ねていたのを工場で行うようになった事くらいでしょうか。

ただ、このハンドメイドのような方法で作られたコンクリートだからこそ、ひとつひとつの現場で微妙に違う独特の表情を作り出せるのです。僕の自邸はウレタンを吹き付けたコンクリート打ち放しです。壁面の一部には、コンクリートの流し込み不良等による質感の違う部分が出来ています。通常は打ち放しに合う補修を行うところですが、僕はこれを「味」と思い、敢えて補修をしませんでした。ハンドメイドだからこそ生じる唯一無二の「美」と感じたのです。もちろん、クライアントの住宅だったら、そんな訳にはいかなかったかもしれませんが...

コルビュジェのラ・トゥーレット修道院の階段室には台形の窓があります。これは本来矩形であるべきものがコンクリート打設時に変形したものです。コルビュジェはこの窓の上に「人間の手がここを通った」という銘を入れたがっていたそうです。

素朴なコンクリートだからこそ生じる偶然の「美」を、この大建築家もこやなく愛していたのかもしれません。

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