実はコンクリートにはいくつかの欠点があります。
まずお話したいのはその断熱性の低さです。僕の家はローコストで断熱材をほとんど使っていません。そのため、冬の寒さはしんしんと身に凍みこんできます。コンクリートは熱容量が高いため、一度冷え切ったコンクリートはなかなか暖める事が大変です。そのため、冬の日中は日の当たらない北側などでは外よりも寒くなります。ちょうど洞窟の中、氷室の中、そんな感じです。そして、室温を上げても壁そのものが冷え切っていますので、その傍にいると冷輻射によって体がしんしんと冷えるのです。もちろんクライアントの家では断熱材をちゃんと使っていますので、こんな事はないと思います。ただ、コンクリートで快適な環境を確保するためには、その厚い壁の内外にさらに厚く断熱材が必要になってくるのです。
20年ほど前、僕はこの建物を徹底的にローコストに作る事を考えました。もちろん、お金がなかった事が最大の理由ですが、ローコストに作る事自体にも拘ったのです。お金を掛ければ掛ける程、建築はその性能をグレードアップさせる事ができます。ただ掛ければ掛けるほど、その建築の骨格のようなものが贅肉によって隠れてくる事があります。それらをそげ落として、そげ落として、最小限のミニマムな骨格が現れた時、そこに見出される美しさもあるのです。それは安藤忠雄の住吉の長屋や、ロマネスクの傑作ル・トロネ修道院を見ればわかります。そこには建築の究極の美しさの一端を垣間見る事ができるのです。ル・トロネの修道士の平均寿命は30に満たなかったと言います。それは厳しい戒律や修行によるものだったのですが、その石造りの厳しい環境も彼らの命を削っていったと思われます。僕が自邸を作った時は独身で、たった一人この建物に住む予定でした。最小限の物しか持たず、極限までそげ落とした建物に住む、そんな求道者のような生活に少し憧れていたのかもしれません。だから、断熱材も最小限で良かったのです。自分だけの家だから、そんな厳しい環境も味わってみたい…そんな「若気の至り」の結果と言えるかもしれません。
僕の事務所にはRC造を望まれるお客さんがよく来られます。予算的に厳しい方には木造を勧めますが、納得されない方にはローコストのRC造の厳しさをお話します。そして、ほとんどの方が木造を選ばれます。
ローコストのコンクリートの寒さは石造りのように、ほんとうに厳しいのです。
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