「さび」と聞くと、僕は「寂」と同時に金属の「錆」も思い浮かべてしまいます。鉄の赤錆、黒錆、銅の赤褐色の錆、そして緑青。機能的には決して歓迎できるものではありませんが、時と共に変わり果てていく金属の姿に「寂」のイメージを重ね、そこに「美」を感じてしまうのです。日本建築の材料には錆竹という材料があります。これは表面に錆のような小さな斑点が現れた竹のことですが、その枯れた風情が好まれ、「わび・さび」を求めた茶室等の空間によく使われることがあります。ここにも「錆」と「寂」のイメージが重なってくるのです。
音楽の好きな人は「さび」と聞くと、楽曲の中の「サビ」を思い浮かべるかもしれません。ただ、曲の「サビ」も少し調べてみると、語源は「謡曲」や「語りもの」などの声帯を強く震わせて発する「寂声」からきているという説があるそうです。曲の「サビ」も金属の「錆」も元々は「寂」と同じ語源からきているのかもしれません。
「さび」という響きの大和言葉がどのように成立したかは知りませんが、「寂」と「錆」の読み方が「寂しさ」や「淋しさ」と同じ「さび」となったのは決して偶然ではなかったような気がします。「錆」の中に「寂」を感じる日本人特有の感性があったのではないでしょうか。時間とともに枯れていくものが持つ儚さの「美」、それが「寂」なのでしょう。
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