天窓は建築空間において,それを劇的に変貌させることができる重要な装置のひとつです。もちろん、壁からの光も大変重要ですが、上から降り注ぐ天窓からの光はそれとは趣も違い、空間をより豊かなものに変えてくれるのです。
僕も多くの住宅に天窓=トップライトを採用してきました。その中でも特に印象に残っているものといえば、M邸のトップライトでしょうか。天井高さ5.7メートルの廊下の突き当りを照らすそのトップライトからの光は、床からのアッパーライトと共にその壁面を神々しく浮かび上がらせてくれました。そのトップライトがなくては、決してこの空間は生まれなかったことでしょう。そして、記憶に残るものをもうひとつ挙げるとすれば、SU邸のリビングのトップライトでしょうか。これはM邸のそれとは違い、神々しさや象徴的な雰囲気を作り出すものではなく、外部から奥まったリビングに暖かな自然光を届ける装置となっています。中央に穿たれたトップライトからの暖かな光がその空間を包み込み、そこを中心に豊かな生活空間を作り出しているようでした。このようにトップライトは空間の質を劇的に変えてくれるとともに、照度確保という役割も果たしています。建築法規では住宅の居室にはその床面積の7分の1以上の窓が必要となりますが、トップライトはその面積の3倍が有効面積としてカウントされます。つまり、壁の窓より3倍明るいとみなされているのです。
ただ、トップライトにも欠点はあります。それは雨仕舞のリスク、そして価格です。どのような材質と構造でどのように取り付けるか。それはもちろん木造と鉄筋コンクリート造の建物でも違いますが、いずれにしても壁の開口部に比べ高価格となり、雨漏りのリスクも高まります。そのため、多くのトップライトからの様々なノウハウの蓄積はできましたが、最近は若い時に比べトップライトを設置することが少なくなりました。どうしてもそれが必要な時、そんな時以外はトップライトを使わなくなったのです。
ただ、天井から降り注ぐその光は今も僕の心を魅了するのです。
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