く・けー空間・建築(5)

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建築家にとって「建築」という言葉は「Architectre」の訳語として、芸術的な側面も含む意味深い言葉です。ただ、多くの一般の人達にとっては建設や建造などといった言葉と同じように、その工学的側面のみでとらえられる事が多いようです。つまり、この言葉は建築家と他の人達の間に微妙な認識のずれを生んでいるのです。

また「Architectre」という言葉は本来ひとつの建物を指す言葉ではなく、「芸術」などと同じような非常に抽象的な言葉なのです。「この作者が描いたこの1枚の芸術は...」などとは使わないように、「この建築家が設計したこのArchitectreは...」などとは言わないのです。ただ、建築家が使う「建築」という言葉の中には建築作品という意味も含まれています。「この建築家が設計したこの建築は...」といったふうに、ひとつの建物を表す時にも使っているのです。つまり、「建築」という言葉は訳すべき「Architectre」という言葉との間にも微妙な食い違いを生んでいるのです。

そればかりではありません。建築士が仕事をする上で絶対に必要な法律「建築基準法」の中には「建築」という言葉の定義が次のように書かれています。

建築 = 建築物を新築し、増築し、改築し、又は移転することをいう。

これでは、「建築」と「建設」・「建造」がほとんど同義であるといっているようなものです。「Architectre」の訳語としてこの言葉を使いながら、一方ではこんな定義をしているのです。このように、建築界の中でもこの言葉の意味は非常に曖昧なのです。

「建築」と「建設」、「建築家」と「建築士」、「建築」と「Architectre」、これらの言葉はどこでどのような人がどのように使うかによって、その意味は微妙に変わってきます。この混沌としたような状況が生まれた責任が伊藤忠太にあるというつもりはありませんが、「Architectre」の訳語として「建築」が使われ始めてから生じたことは事実なのです。

ただ、日本語は本来曖昧なものであり、それ故の不都合がある半面、それ故の豊かさもあると思うのです。意味深に「建築」という言葉が使われた時、そこにどんな意味が込められているか、色々と思いをめぐらすのもなかなか楽しいことかもしれません。

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